ドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの冬春モデル戦略を読み解く





大手3キャリアの冬春モデル発表会が相次いで開催された、9月30日から10月11日の2週間。iPhoneが3社から出そろったこともあり、各社とも差別化できる端末の重要性が増している。また、人気の端末が複数のキャリアから発売されることもあり、ネットワークやサービス、料金にも以前より焦点が当たりやすくなった。こうした中、大手3キャリアはどのような戦略で冬商戦に臨むのか。今回の連載は、3社の冬(春)モデル発表会を受け、各社の戦略をまとめた。

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●iPhoneが3キャリアから出そろったことで増す、Androidの重要性

 9月にNTTドコモからiPhone 5s、5cが発売された。これによって、大手3キャリアなら、どこからでもiPhoneが買える状況になった。iPhoneが欲しいという人から見ると、端末によるキャリアの差がなくなったというわけだ。もちろん、各社ともiPhoneに対しての取り組みは異なるが、端末ではなく、ネットワークや料金、サービスでキャリアを選ぶことが可能になったのは、ドコモ版iPhoneの登場以前、以後の大きな違いだ。

 端末という分かりやすい差がなくなれば、ネットワークや料金、サービスの競争が激化してくる。ドコモのiPhone導入以降、各社ともネットワークのアピール合戦を行っているのもそのためだ。ただ、ネットワークは水物とも言われ、状況は日々刻々と変わる。3社とも設備投資を重ねてきたこともあり、一般のユーザーには差が分かりにくい状況だ。LTEが数Mbps速いと言われても、ピンとこないのが正直なところだろう。今はまだ料金競争に陥っていないが、代わりに店頭でのキャッシュバック合戦は激化の一途をたどっている。

 また、iPhoneは確かに人気の端末で完成度も高いが、キャリアが1つのプラットフォームに依存するのはリスクにもなる。先に挙げたように、競争軸がネットワークや料金だけになってしまえば、あとは泥沼の戦いが待っているだけだ。また、グローバルで見れば、iOSのシェアは漸減傾向にあり、調査によって異なるが、日本でも半数以上のユーザーはiPhone以外のモデルを選んでいる。iPhoneがどのキャリアにもあるという状況であれば、なおさらそれを選ばないユーザーを満足させるラインアップをそろえなければならない。

 こうした状況を見越して、Androidのラインアップを一気に拡充したのがKDDIだ。同社の代表取締役社長、田中孝司氏が「ドコモさんがiPhoneを出した今、ちゃんと選べた方がいい」と語っていることも、ラインアップをそろえる時期を狙っていたことを裏づける。また、同社は春夏にかけ機種を絞りすぎていたため、「『選べる自由』と言うが、選べない」(同)という状況にあった。これに対して、田中氏は次のように語っている。

 「夏の質問に対してお応えしようと思ってそろえてきたのが本音。お客様の側に立って、いろいろなものを選べるようしないといけない。たくさん選べるという原点に戻った」

 そこで、KDDIはまずドコモの“顔”だったXperiaやGALAXYについても、グローバルの最新モデル「Xperia Z1 SOL23」や「GALAXY Note 3 SCL22」を取りそろえた。国内メーカーのモデルも、「ARROWS Z FJL22」「AQUOS PHONE SEIRE SHL23」「DIGNO M KYL22」と充実させた。ただ、Xperia Z、GALAXY、AQUOS PHONE、ARROWSは、他社からも出ているブランドだ。XperiaとGALAXYはソフトバンクに対して優位になるが、ドコモとは横並びになったに過ぎない。そこで、KDDIはLGエレクトロニクスと共同開発した「isai LGL22」を加え、ラインアップに幅を出した。

 isaiは、LGのフラッグシップモデル「G2」と一部機能は同じだが、デザインやUI(ユーザーインタフェース)でKDDIの独自性を出した。KDDI関係者によると、「これまでLGのモデルは満足度が高かったが、ブランド力が弱かった」そうで、足りない部分をKDDIの培ってきたノウハウで補いたいという計算があるようだ。実際、同じ手法でKDDIはこれまで、HTCを日本市場に根づかせてきた。その役割が、冬商戦ではLGになったというわけだ。田中氏はisaiを開発した理由について、「スマホはグローバル化が急激に進んでいるが、ここで折れるとダメだと思っている。少しプラスをつけようと思った」と語っている。複数のキャリアが同じグローバルモデルをラインアップにそろえる中、どこかでKDDIらしさを出したい。こうした考えで、冬モデルのラインアップが構成された。

 また、同じグローバルモデルといっても、プロモーションなどの方法次第で、ユーザーからの受け止められ方は変わる可能性もある。例えば、KDDIはGALAXY Note 3を「ファブレット」に分類して、あえてほかのモデルとは違った見せ方をした。田中氏が「今回の紹介は冬モデルだけ。春モデルは春にやりたい。そこでも新たなファブレット、タブレットを拡充していきたい」と述べているように、5インチと7インチの間の端末を率先して育てていきたい意向も見え隠れする。実際、GALAXY Note 3は、デビューキャンペーンと銘打ち、新規やMNPで2万1000円、機種変更で1万500円の割引を行う。これを利用すれば本体価格はもちろん、実質価格も、同じGALAXY Note 3を扱うドコモと比べて割安になる。

 このようにラインアップは充実したものの、全体を見渡すとまだ穴がないわけではない。どのモデルも機能が高い半面、コンパクトなモデルが見当たらず、最も小さなAQUOS PHONE SERIEでも4.8インチと大型だ。国内のAndroid市場全体を見ると、ハイエンドモデルが売れる一方で、4.6インチの「Xperia A SO-04E」が大ヒットとなった。そもそも、単一モデルとして最も売れているiPhoneは、今でも4インチだ。フィーチャーフォンから初めて移行するユーザーのことを考えると、やはり片手で扱いにくい5インチは少々ハードルが高い。こうした役割はiPhoneが担うという考えもあるが、Androidはおサイフケータイやワンセグ、赤外線、防水といった日本仕様に対応しやすいというメリットもある。コンパクトモデルのラインアップという点では、人気モデルの“大小”をそろえたドコモにはもちろん、ソフトバンクにも一歩及んでいない印象を受ける。

●ドコモはプレミアムコンパクトが差別化の鍵、サービスのマルチキャリア化でも一歩リード

 Xperia Z1やGALAXY Note 3でKDDIと横並びになってしまったドコモ。ディスプレイやバッテリーといった機能に差分はあるが、「AQUOS PHONE ZETA SH-01F」や「ARROWS NX F-01F」も、3社が持つブランドだ。一方でドコモは、「Xperia Z1 f SO-02F」や「GALAXY J SC-02F」といった端末は、“ドコモだけ”にしかない。KDDIの田中氏と表現の仕方は異なるが、ドコモの代表取締役社長 加藤薫氏も「ドコモにとっては全部が顔」と、幅広いラインアップの中から選べる重要性を強調しながら次のように語る。

 「ある機種だけという方は少ない。こういうものが欲しい、今まで使っていたものとの連続性がいるという方もいる。一定数のユーザーがいる以上、選択のバラエティというのは必要」

 このようなラインアップをそろえながらも、AndroidはXperia Z1 f、AQUOS PHONE ZETA、ARROWS NXを「おススメ3機種」として、夏モデルのツートップのように価格やプロモーションで優劣をつけて展開する。ただし、加藤氏が「販売価格はありていに言うと、1万円から1万5000円、2万円の間で展開していきたい。その価格は簡単には出てこないもの」と言うように、5000円台の実質価格がつけられたXperia Aほどの大幅値引きにはならない模様だ。

 一方で、ドコモ関係者によると、全機種ともMNPなら実質価格0円に近くなるという。すでにドコモオンラインショップで予約開始されている機種を見ても分かるが、おススメ3機種に入っていないXperia Z1やGALAXY Note 3に関しても、MNPでは月々サポートが大幅に増額され、実質価格は0円になる。ことMNPに関しては、ツートップやスリートップどころではなく、ディフェンダーやキーパーまでもが敵陣ゴールに攻め込む布陣を引いているようだ。

 端末ラインアップと同じか、それ以上にインパクトが大きかったのは、ドコモの「キャリアフリー」宣言だ。かねてから進めていた「dビデオ」「dアニメ」「dヒッツ」を初めとする「dマーケット」のサービスを、順次他キャリアにも開放していく。すでに「dゲーム」は他社ユーザーも利用できるが、今後は、ほかのサービスでも「docomo ID」でログイン可能になる。つまり、認証の方式を通信回線にひも付いたものから、インターネットで一般的なID、パスワードに変えていくということだ。ドコモのサービスには賛否両論あるが、中でもdビデオは460万、dアニメは100万を超えるユーザーを獲得しており、コンテンツの充実度に対する評価も高い。

 また、dマーケットの新たなサービスとして、買収したマガシークと一緒に「d fashion」をオープンする。元々ファッション分野に強かった会社が運営しているだけに、品ぞろえも充実している。ファッションはAmazonや楽天がやや手薄で、国内では「ZOZOTOWN」のシェアが高い分野だが、「d fashion」も「品ぞろえも競合に比べてそん色ない」(担当者)という。他キャリアのユーザーを上手に取り込めれば、ドコモの成長の源泉にもなりそうだ。また、JTBとタッグを組んで始める「dトラベル」や、子ども向けコンテンツを充実させた「dキッズ」も、他社にはない取り組みで面白い。

 マルチキャリア展開を打ち出したという点では、3M戦略を掲げていたKDDIより一歩先を行った印象を受ける。KDDIはマルチユース、マルチネットワーク、マルチデバイスの3つを掲げているが、これらのサービスはあくまでKDDIとの契約にひも付いているものがまだまだ多い。ドコモがここに先がけ、4つ目のMである「マルチキャリア」を打ち出したことからも、dマーケットにかける意気込みが見て取れる。

●ソフトバンクは我慢のとき? 端末は少数精鋭

 ドコモやKDDIが幅広いAndroidスマートフォンの端末をそろえてきたのとは対照的に、ソフトバンクの冬春モデルは、よく言えば厳選された、悪く言えば手薄なラインアップだった。スマートフォンは「AQUOS PHONE Xx 302SH」「AQUOS PHONE Xx mini 303SH」「ARROWS A 301F」に加え、ディズニー・モバイルの「DM016SH」の4機種のみ。DM016SHは、ベースがAQUOS PHONE Xxということもあり、事実上3機種しか発売されない。冬商戦に限って言えば、春モデルのAQUOS PHONE Xx miniが除かれるため、ラインアップは2機種になる。

 ソフトバンクの代表取締役社長兼CEOの孫正義氏は「ドコモさんはツートップのように、数多く端末を発表する時代からある程度商品を絞り込んで、重点的にそれらの商品を世に出していく時代になった」と語り、端末ではなく、ネットワークやサービスでの競争が重要になることを強調した。先に解説したように、そのことについては疑いの余地はない。一方で、それはあくまで端末が“横並び”になった上での話だ。例えば、XperiaやGALAXYをソフトバンクの魅力的なネットワークで使いたいというユーザーがいても、現状ではその選択肢は用意されていない。サービスについても同様だ。3辺狭額縁で画面占有率が80.5%と高いAQUOS PHONE Xxはインパクトがあり、ソフトバンクならではの商品と言えるが、ラインアップが他社より手薄な中でどこまで戦っていけるのかは未知数だ。

 もちろん、孫氏もこうした状況に満足していないことはうかがえる。買収した米・Sprintとのシナジー効果について問われた孫氏は、次のように語っている。

 「ボリューム効果が出てくるのは、今から半年後から1年後。そのころに続々と出始める。つい、2カ月ぐらい前までは、ソフトバンクが本当に買えるのか、DISHの傘下に入るのか、分からない状況だった。その状態で、端末やネットワークの正式な発注はできない。今、まさに先週も、世界的な端末メーカー、通信機器メーカーのトップと交渉を開始し始めている状況。今までだと、世界的なメーカーのトップがわざわざ東京に来たり、私がシリコンバレーにいてメール1本で『集合』とやれるような交渉力を持てたりはしなかった。特にAndroidにおいては、ソフトバンクが買っている台数は非常に少ない。ただ、今回の統合効果において、買える台数は日本のレベルをはるかに超えた。ドコモさん、KDDIさんを超える量を我々が発注することになる。そのようないい意味での影響が出るのは半年後」

 この発言からは、バリエーションを広げたくても、今はAndroidの発注数が少なく、なかなか思うようにいかない孫氏の本音が見え隠れする。実際、関係各社の話をまとめると、ソフトバンクのAndroidは販売台数が他社に比べて極端に少ない。そのような中でラインアップを広げすぎてしまうと、さらに1台あたりの台数が落ち込んでしまう。だからこそ、冬春商戦はAppleに加え、シャープと富士通にメーカーを絞りこむことで1台ずつの売れ行きを伸ばしていきたいという意思が感じられる。ソフトバンクにとって、今は我慢のときと言えるのかもしれない。

 ラインアップが手薄だった半面、Androidスマートフォン用のネットワークについては、3社の中でもっとも面白い取り組みをしていた。同社のAndroidはこれまで、Wireless City PlanningのAXGP(TD-LTE)にのみ対応していた。これによってトップスピードは速い半面、利用できるエリアが限られていた。冬春モデルからはここにiPhoneで活用していたFDD-LTEを加え、「Hybrid 4G LTE」を展開していく。分かりやすく言えば、速度の高いAXGPとエリアの広いFDD-LTEを切り替えなら使うことで、両者のいいところ取りをするというネットワークだ。

 冬春モデルは2.5GHz帯のAXGPに加え、2GHz帯のLTEにつながる。イー・モバイルの1.7GHz帯を活用する「ダブルLTE」にも対応した。さらに、春からスタートする900MHz帯のLTEも利用できる。都市部でのAXGPは速度に定評があるが、これにFDD-LTEのエリアの広さが加われば、Androidも他社にひけを取らないネットワークを実現できる。2つの方式のLTEを利用するのは、世界的にも珍しく、今年始まったばかりだ。グローバルでもまだまだ端末は少なく、冬春モデルを開発したメーカー関係者に話を聞くと「チップは対応していても、アンテナの配置やチューニングが非常に大変だった」という。これも、端末のラインアップが少なかった原因の1つかもしれない。

 発表会ではネットワークについて他社の通信障害の事例を挙げながら、「850日以上重大な事故なし」と胸を張っていた孫氏。確かにそれは、事実だ。ただ、発表会の翌日、ソフトバンクモバイルは2009年から6万3133件の信用情報を誤登録したことを明らかにしている。分かりやすく言えば、きちんとお金を払っていたユーザーを「ブラックリスト」に入れてしまったということだ。この信用情報はローンを組むときや、クレジットカードを新規作成するときなどに、各社が参照するもの。実際、これによってクレジットカードの発行を断られるなどの事例もあったようだ。

 信用情報はすでに修正し、影響の出た1万6827人にはダイレクトメールで謝罪したというが、発表会はこの事実を隠したまま進められたことになる。自社の不都合な事実を隠して、他社の障害をあげつらうのはいかがなものか。これでは、不祥事の隠ぺいと受け止められても仕方がない。割賦販売という各キャリアに根づいた販売方式の信用を揺るがすだけでなく、顧客の社会生活に不安をもたらすという点では、信用情報の誤登録も通信障害と同程度か、それ以上に重大な問題だ。

 その後、孫氏はYahoo!Japanのイベントで、ユーザーに対して謝罪の言葉を述べている。ただ、謝罪は本来、信用情報が誤登録されたユーザーに向けられるべきものだ。イベントはその場に適切とは言えない。また、ユーザーに安心してもらうには、短い謝罪の言葉以上に、なぜこのようなことが起こったかという経緯と、今後どのような対策をしていくのかを説明する方が大事なのではないか。現時点でソフトバンクの情報公開体制は、不十分と言わざるをえない。










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